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ホーライサンワイナリー「ついでに 2021」テイスティングレポート

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ワインブロガー・ヒマワインがホーライサンワイナリーの「ほしあつめ2022」をテイスティングレポート! 果たしてその味わいは?(以下、文章はヒマワイン)

 

ついでに2021はどんなワインか

なにかのついでに別のなにかをするのが好きだ。

昔、毎月のように日本のあちこちに出張していたころ、朝イチからスケジュールをギチギチに詰め込んで夕方くらいに仕事を終え、地元の温泉(なければ銭湯)にゆっくり浸かり、その後飲みに行くという「出張ついでに飲み」がほぼライフワークと言っていいレベルで好きだった。行くのは観光地でもなんでもない普通の土地。旅行の目的地にはならない場所だとしても、「ついでに」楽しみがあるだけで途端に換えが効かない魅力を帯びるのだ。

ホーライサンワイナリー,ついでに2021

さて、ホーライサンワイナリーに「ついでに」という名前のロゼワインがある。聞けばこのワイン、毎年11月1日に限定販売する新酒、それを造る“ついでに”造られるワインなのだそうだ。

どういうことか。

なんでもホーライサンワイナリーでは新酒を造る際に果汁を一部抜き取り、それをロゼワインに仕立てておいて、新酒の瓶詰め時にその一部を混ぜるのだそうだ。それにより瓶詰め時に香りが閉じてしまう“瓶ショック”をやわらげ、同時に飲みやすさ・果実感を足す。そして、このときに余ったロゼワインが「ついでに」となるというのだ。見えないところで非常に手間をかけた造りをしていることがわかるエピソードだが、この話を聞いたとき私は思わずこう言った。「ほんとに“ついでに”なんですね……!」と。

 

 

ついでに2021を飲んでみた

新酒を造るついでに生まれたワイン「ついでに」は、ではおいしいのだろうか。現行ヴィンテージにあたる2021を飲んでみたが、これが実にうまいのだ。マグロの中落ちはマグロの刺身を作る際に中骨周辺に残る身のことだ。いわば刺身の「ついでに」が中落ち。だが、じゃあ中落ちは刺身よりおいしくないかといえばそんなことはまったくない。かくいう私も中落ちが大好きだ。やわらかくて、それでいて味が濃いのがいいんですよね。赤身とトロの中間赤身寄りの感じで。失礼、ワインの話だった。

ついでに2021

「ついでに」に使われているのはホーライサンワイナリーのメイン品種のひとつと言えるマスカット・ベーリーA。色合いはアセロラドリンクのようなはっきりとしたピンク色で、この品種ならではのキャンディのような甘い香りはほとんど感じない。代わりにとても穏やかな、一輪の花が6畳間に1本だけ活けられているような、控えめだけど存在感のある香りがグラスから漂ってくる。

味わいは非常に軽い。アメリカンチェリーの濃い甘さではなく、日本のサクランボのようなフレッシュな甘やかさがあり、ザクロのようなシャープな酸が全体を支えている。ほんのりあんずやビワといったニュアンスも感じる。日本の野山に自生し、やがて栽培化されていった果実たちの雰囲気をまとった味わいは、いかにも北陸のこの地に根付いたぶどうから造られたワインだなあという印象だ。

ヴィンテージが2021とちょい熟なのもポイントだ。3年寝かせたベーリーAのロゼ、みなさんは飲んだことあるだろうか? キャンディ的香りが落ち着いて果実とフレッシュな酸が楽しめるのは、このちょい熟の効果もある気がする。ベーリーA、もしかしたら熟成して本領を発揮する品種なんじゃないか。

 

ついでに2021に合いそうな料理

この「ついでに2021」甘やかだがあくまでもドライ(辛口)なので、食事に合わせやすいのもいい。酸があるので冷やしておいしいし、果皮由来の骨格も兼ね備えているので肉料理だって相手にできる。しめ鯖から唐揚げまでなんでも合いそうな包容力があり、居酒屋でボトルでこれを頼んだら他のお酒は必要ないかもしれないと思わされる。「ついでに」だけど、「ついでに」じゃなく、きちんとメインを張れるワイン。「ついでに」はそんなロゼワインだ。

このワインに合うつまみはなんだろうか。前出のような居酒屋メニューに気軽に合わせるのは最高に良さそうだ。だが、一品選ぶとするならば、それこそマグロの中落ち、それを韓国風に味付けしたユッケあたりだろうか。刺身のついでに取れる中落ちと、新酒のついでにできる「ついでに」。ついでについでにと呪文のように唱えつつ、仲の良い仲間とついだりつがれたりしたら、きっとその夜はいい夜になるはずだ。富山に旅行に行くついでにやまふじぶどう園に遊びに行く際はぜひついでについでにを買ってみてはいかがだろうか。ややこしいですけど。

https://www.winery.co.jp/wine/1916/